大分共同相続相談フォーラム

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相続相談Q&AQestion and Answer

相続の相談の中でよく聞かれることや相続でよく問題になることを簡単にまとめました。
専門家からすると「当然」と思われることも、一般の方には分かりにくいものが多いようですので分かりやすさを心掛けました。説明は簡略化しているので少し厳密性に欠けている部分がありますが、一般の方向けのQ&Aですのでご容赦ください。 

弁護士 根岸秀世

よくあるご相談一覧

質問欄をクリックで回答内容が表示されます。
一度した遺言は取り消せるのでしょうか?
例えばこんな場合。
「私は今80歳です。夫が10年前に亡くなり,子供は息子と娘が二人います。今は息子と同居していますが,息子から,自分に全財産をやるという内容の遺言を書いてくれとせがまれて,面倒を見てもらっている弱みから,言われるままに書いてしまいました。でも,息子には夫が事業資金を融通したりして十分にお金を渡しています。娘の一人は独身で子供もいないので,財産を多めに残してやりたいと思うようになりました。一度してしまった遺言は取り消したりできるのでしょうか。公正証書というのにしたので取り消せないと知り合いから言われましたが本当でしょうか。」

 遺言は,いつでも取り消せます(法律用語では取消ではなく「撤回」という言葉を使いますので,これから「撤回」といいます。)。
 遺言を撤回するのに理由もいりません。ただし,遺言の撤回は,「遺言の方式」に従わないとだめなので,適正な形式の遺言書を作って,その中に,前の遺言は撤回すると書いておく必要があります。自筆証書遺言は後で効力が問題になりやすいので,公正証書にしておくのをお勧めします。
 公正証書にすると息子さんに知られてしまいそうでできないという場合は,自筆証書でするしかありません。その場合,曖昧な言い方ではなく,「平成〇年×月〇日に公証人○○が作成した平成〇年第〇号遺言公正証書」などと,撤回したい遺言をきちんと特定する必要があります。
 また,遺言を撤回したことがばれてまた遺言を書かされるケースもありますから,娘さんに財産を確実に渡したいのであれば,生前贈与なども検討した方がいいかもしれません。
 いずれにしても,専門家に相談することをお勧めします。
葬儀費用は誰が出す?
相続では,親の葬儀費用を誰が出すかでもめることもよくあります。例えば次のような例。
「父が3カ月前に亡くなりました。遺言書はありません。母はすでに亡くなっていて,相続人は長男の私と,妹二人の三人です。父は地元の有力者だったので葬儀は盛大にと考えて,私が喪主となって,盛大な葬儀を営んだところ,遺産分割協議になって,妹二人から,葬儀費用が高すぎる,相続財産から支払うのはおかしいと文句が出ています。こういう場合,葬儀費用は誰が負担するのでしょうか。」

 実は,葬儀費用を誰が負担するかについては,裁判所の考え方は固まっていません。注意していただきたいのは,葬儀費用は,被相続人(あなたのケースではお父さん)が亡くなった後で発生した債務なので,「お父さんの債務」ではあり得ないという点です。お父さんの債務なら相続分に従って相続人が負担することになりますが,死後に発生した債務なので問題になるのです。
 そうはいっても,葬儀費用は相続財産から支払われるのが一般的で,相続人間で争われることは多くはありません。
 ただし,相続人の間に感情的な対立があると,葬儀費用についてもいろいろ文句が出ます。例えば,葬儀費用が高すぎる,香典が少なすぎる(喪主が懐に入れた),勝手に葬儀の段取りを決めた喪主が葬儀費用を払うべきだ,などなど。
 葬儀費用の負担については,大きく分けると,①喪主が負担,②相続財産から負担,③相続人が法定相続分に応じて負担,④その地方の慣習で決まる,という4つの考え方があります。裁判例もこの4つの考え方で割れています。
 あなたのケースでは,話し合いでまとまらなければ,遺産分割の調停の中で協議し,それでもまとまらなければ遺産分割の審判で裁判官に判断してもらうしかありません。ちなみに,遺産分割は必ず事前に調停をしなければならないわけではなく,いきなり審判を申し立てることもできます。
妹さんたちと話し合いをして,その結果次第で,もう一度裁判所で話し合いをするか(調停),それともいきなり裁判官の判断を仰ぐか(審判)を決めることになると思います。
遺言は書きたいけれど,公正証書にするのは費用と労力がちょっと,という方も結構いらっしゃいます。そこで自筆証書遺言はどうかということで,相談されることがあります。最近では皆さんインターネットで情報収集してから事務所に相談に来られるので,かなり突っ込んだ内容を聞かれます。例えばこんな相談。
「自分の手書きの遺言書というのがあって,今度法律が変わって手軽に利用できるようになるということですが,具体的にどのあたりが手軽になるのでしょうか。」

このQ&Aの最後の方に「自筆証書遺言の保管制度について」というQ&Aを載せていますが,お手軽になった部分についてもう少し詳しく説明しましょう。
まず,全文自筆という要件が緩和されて,「自筆証書にこれと一体のものとして相続財産の全部または一部の目録を添付する場合には,その目録については,自署することを要しない。」こととなりました(改正民法968条2項)。ただし,目録の全ページに署名押印する必要があります。
具体的にはどんなものがこの目録として考えられているかというと,法制審議会の参考資料では,「○○に別紙2の預金を相続させる。」という遺言に対応する別紙として,預金通帳のコピーに「別紙2」と書いて署名押印したものや,「××に別紙3の不動産を相続させる。」に対応する別紙として,不動産登記簿(正式には「全部事項証明書」)のコピーに「別紙3」と記載した上で署名押印したものなどが見本として挙げられています。
通帳のコピーや登記簿のコピーが利用できるとなると,自筆証書遺言もずいぶん楽に書けることになりそうです。
公正証書遺言を実際に作る手続きは?
 弁護士事務所すら敷居が高いという人が沢山いるくらいですから,公証役場(公証人役場ともいいます。)となると,「公証」?「役場」?聞いただけで怖くて電話もできないという人がいても不思議ではありません。そこで,公証役場での実際の手続きや雰囲気について説明しましょう。

 公証人は国の公務である公証事務を担う公務員ですが,依頼人から受け取る手数料が収入源の独立採算制の公務員です。ですので,公証人「役場」といっても,雰囲気は弁護士事務所や司法書士事務所に近いアットホームなところです。
 公正証書遺言を作る場合,まずは内容の打ち合わせですが,これについては,Q&A「公正証書遺言の作成前に専門家に相談した方がいいケース」などで説明しているので省略します。
 内容が決まると,いよいよ公正証書遺言の作成ですが,それには証人が二人必要です。証人は基本的に誰でもよく,弁護士に文案の作成を依頼する場合は,弁護士本人と事務所の事務員さんに証人になってもらうことが多いです。頼めば公証役場で手配してくれますが(公証役場の事務員さんにお願いするパターン),その場合は,当日いきなりお願いするのでなく,事前に頼んでおいた方がいいでしょう。
 手数料も事前に教えてくれますので,作成日当日全額を準備していきます。
 ドアを開けて受付の人に「今日公正証書遺言を作ってもらうことになっている○○です。」というと,事務員さんに別室に案内されます。そこで,公証人からかなり詳しく自分が作る遺言の内容を確認されます。「この○○銀行○○支店の口座番号○○の預金は,誰にあげるのですか。」など,本当にこの内容の遺言をしたいのかをしっかり確認します。
 面倒と思うかもしれませんが,これが,公正証書遺言が無効になりにくいとされる大きな理由ですので我慢してください。
 内容を確認してから,公証人が公正証書を全文ゆっくりと読み上げます。面倒がらずにきちんと確認しましょう。
 最後に,付言として,あなたが遺言書を遺す理由や気持ちを書いた部分を読み上げると,感極まって泣いてしまう方もいらっしゃいます。作成に関与した側からすると,本人の気持ちをちゃんと文書にできたことを確認する瞬間です。
 最後に原本にあなたが署名押印(実印で)し,証人も署名押印(認め印でよい)して完成です。
 完成すると,公正証書の正本と謄本を各一部と,注意事項とか留意事項という名称の文書をくれます(公証役場によって違いがあります。)。それには,遺言はいつでも書き換えることができるとか,公正証書の写しは大切に保管してほしいが,公正証書遺言の原本は公証役場で半永久的に保管するので紛失したら再発行できるとか書いてあります。この文書も公正証書遺言の正本謄本と一緒に大切に保管しておきましょう。ちなみに,遺言の公正証書で不動産の相続登記をする場合は,謄本ではなく正本が必要です。
 正本と謄本を受け取って手数料を払ったら公正証書遺言を作る長い道も終点です。家に持って帰ったら大切に保管しましょう。
遺言が無効になる場合とは?
 親の世話を一生懸命した子供が遺産を多めに貰おうとして親に遺言書を書いてもらっても,親の認知能力の程度次第で,遺言が無効になってしまうことがあります。例えばこんなケース。
「父の死後,私は母の面倒をずっと見てきました。兄弟は兄がいますが,遠方で,面倒も見ないし,母の医療費や介護費用も出しません。母が亡くなったら兄が半分相続すると思うと悔しいので,母に,全財産を私に相続させるという遺言を書いてもらおうと思っています。母もそうしたいと言ってくれています。ただ,母は少し認知症が始まっています。大丈夫でしょうか?」

遺言が有効か無効かは,「遺言能力」があるかどうかの問題です。遺言能力は原則として,15歳以上なら認められますが,前提として,「意思能力」があることが前提です。意思能力は,一般には,行為の結果を弁識できる能力,つまり,自分がしたことがどんな結果をもたらすかを理解できる能力のことです。遺言で言えば,自分がする遺言の内容を理解して,その遺言の結果どうなるかを理解できる能力ということになります。
この能力がないと遺言は無効になってしまいます。
では,この意思能力あるいは遺言能力があるかどうかはどうやって判断されているのでしょうか。
ある裁判例は,遺言能力の有無を検討するに当たっては,①遺言者の認知症の内容程度,②遺言者が当該遺言をするに至った経緯,③当該遺言作成時の状況,を十分に考慮した上で,④当該遺言の内容が複雑なものか単純なものかとの相関関係において慎重に判断すべき,と述べています。
一つ一つ見ていきましょう。
まず,①遺言者の認知症の内容程度の判断でよく用いられるのは長谷川式簡易知能評価スケール(HDS‐R)です。他に,認知機能検査(MMSE)という検査の結果が用いられることもあります。
ごくざっくりいえば,長谷川式簡易知能評価スケール(HDS‐R)の得点が10点以下か,または認知機能検査(MMSE)の得点が14点以下だと,成年後見人を付ける程度の認知能力とされていて,「成年被後見人」は,単独で遺言する能力がないとされていますので(民法973条1項),HDS‐Rで10点以下か,MMSEで14点以下だと,に遺言能力についても,ないと判断されやすいと思われます。
次に,②遺言者が当該遺言をするに至った経緯ですが,例えば,相談者のケースで,身の回りの世話をして経済的な負担もしてきた相談者に全財産を相続させるというのは,遺言を作成する動機や経緯の点で不自然さはあまりないでしょう。逆に,全くしていないお兄さんに全財産を相続させるという遺言は不自然ということになります。
次に,③当該遺言作成時の状況ですが,誰も見ていない密室で作成されたのか,利害関係のない第三者の立会いの下で作成されたのかなどの事情が問題になります。
最後に,,④当該遺言の内容が複雑なものか単純なものかという点は,認知症が認められるのに,複雑な遺産の配分を遺言の中でしているというのは不自然で,本人以外の人の意思が介在したと疑わせますし,単純に,「私の財産は全部○○に相続させる。」といった内容であれば,多少の認知能力の低下があっても,その遺言で財産が全部○○に行くということが認識できていたのであれば,遺言が有効と認められやすいことになります。
要は,これが決め手というのはなく,長谷川式の点数やその他の事情が総合的に考慮されて判断されるということです。
それでは,せっかく書いてもらった遺言が無効にならないようにするにはどんな点に注意すればいいでしょうか。これについては次のQ&Aで取り上げます。
遺言を無効にしないためには。
遺言が無効になれば大変ですし,無効にならないまでも,裁判で有効性を争われると,遺産分割が何年もできないことになりかねません。次のようなケース。
「私は母に,財産を私に相続させるという内容の遺言書を書いてもらおうと思っています。後から,遺言書が無効だと他の兄弟から争われないようにするには,どんな点に注意すればいいでしょうか。」

遺言が無効とされるのは,第一に,遺言をする人に,遺言の内容や,その遺言でどんな結果が生じるかを判断できる能力がない場合です。
でも,実際は,高齢者の認知の程度は日によっても異なります。世間でいう「まだらボケ」のケースなどです。
そこで,一つは,遺言書を書いてもらうのと同じ時期に,お医者さんにお願いして長谷川式などの検査をしてもらい,検査結果をカルテに保存してもらうことです。もちろん,検査の結果次第では遺言書を書いてもらうことを諦める場合もあります。
もう一つは,本人が,こういう理由でこの遺言を書くのだと語る様子を,スマホなどを使って録画しておくことです。例えば,娘は一生懸命自分の世話をしてくれたが,息子は何もしてくれないから,遺産を全部娘にやることにするという,遺言を書く理由を,本人が説明していて,動画の様子からも本人がちゃんと状況を理解していることが伝われば,遺言が有効とされやすいでしょう。
三つ目は,公正証書遺言にすることです。
公正証書遺言は,公証役場に出向いて公証人に遺言の内容を確認されます。公正証書遺言が無効とされた例もないではありませんが,通常,公正証書遺言というだけで,相談された弁護士は「ああ,それは争っても勝ち目はないな。」と思うものです。
ですので,費用が掛かるという点を置けば,公正証書遺言を作ってもらうのが一番のお勧めです。
公正証書遺言の費用については,Q&Aの「公正証書遺言のメリットデメリット」を参照してください。
不動産の評価は難しい!
 遺産が主に不動産という場合に,いつも問題になるのが,その不動産の価値をどう評価するかです。例えばこんな相談例。
「父が5年前に亡くなって全財産を母が相続していましたが,今度その母が亡くなりました。相続人は私と兄だけ,遺産は古い実家の住宅だけです。遺言書はありません。兄は実家の隣に家を建てて住んでいるのですが,実家の不動産は自分が相続したいので,私には不動産の価値の半分相当のお金を渡すと言っています。ただ,不動産の価値は「固定資産税評価額」を基準にしたいと言っているのですが,何か問題はありますか。」
 実は,土地の評価方法には公示地価(地価公示価格),基準地価(基準値標準価格),相続税路線価,固定資産税評価額,時価の5種類があります。それでは相続で固定資産税評価額を使うことの問題点は何でしょうか。

 まず,簡単に5つの地価を説明しましょう。
 時価は説明するまでもないでしょう。その土地の実際の価格です。ただ,時価はその土地が実際に売買されてみないと分からないし,どうしても欲しいという人が買う場合は高めになるという問題点があります。ですので,隣の土地が坪○○万円だったというのをそのまま横滑りさせることはできません。
 地価公示価格は簡単にいうと国が地価公示法という法律に基づいて1月1日現在の標準地点での価格です。基準地価というのは,公示地価をもとに都道府県が発表する地価です。どちらも不動産鑑定士が鑑定して決めるいわば「公定地価」です。時価に一番近いと言われています。
 これに対して相続税路線価というのは相続税や贈与税,地価税の課税価格の算定の基礎とするために国税庁が評価するもので,地価公示価格の8割程度と言われています。
 相続案件で一番使われる地価は固定資産税評価額と思われますが,これは,固定資産税課税台帳の登録価格で,一般に時価の7割程度と言われています。
 そうすると,固定資産税評価額で評価してその半分というのは低すぎる!と思われるかもしれませんし,確かに,すぐに買い手がつくような一等地ならその通りです。ですが,今,特に地方では,固定資産税評価額でもとても買い手がつかないような不動産も沢山あり,一概に不利とはいえません。
 もう一つ考えなければいけないのは,土地の上に載っている建物の価値です。アメリカなどでは中古住宅を購入してリフォームして住むというのはごく普通のことのようですが,日本人は「まっさら」が好きなので,どうも中古住宅に住むというのは抵抗がある人が多いようです。そのため,昔ほどではないでしょうが,中古住宅は,「価値がある」というよりもむしろ「取り壊し費用が掛かるマイナスの資産」という位置づけになることが多くあります。
 つまり,建物にも「固定資産税評価額」はついているのですが,実際には,そんな価値はとてもなく,取り壊して処分する費用分だけ,不動産の価値を落とす存在ということも多いのです。
 ですので,あなたのケースも,売りに出せばすぐに買い手がつくような優良物件かどうか,建物はリフォームして住みたくなるような比較的新しいものか,などを見ないと,一概に固定資産税評価額だからあなたに不利,とはいえません。
誰(どんな専門家)に相談したらいい??
時々,法律家業界の常識と一般の人の知識のずれに愕然とすることがあります。先日もこんな質問がありました。
「子どもが二人いるが,家を子供の一人に生前贈与するか,遺言書でその子にやるようにしたい。誰に頼めばいいのでしょうか。司法書士と公証人という人がいるようですが,どう違うのですか。私の場合どちらに頼めばいいのですか?税金については誰に相談すればいいのですか?」

 専門家の知恵を借りたいのだが誰に相談したらいいか分からないという方はとてもたくさんいらっしゃいます。この相談フォーラムを作った一つの理由がそれです。
 まず,生前贈与については贈与税が掛かります。ただし,相続時精算課税制度というのを利用すれば,贈与する側が60歳以上で贈与を受ける側が贈与者の子か孫で20歳以上であれば,2,500万円の税金控除が受けられる「相続時精算課税制度」というのがあります。
 この制度は一定の要件を充たす生前贈与について2500万円まで贈与税がかからないというメリットはありますが,誰でも使えるという訳ではないので,やはり専門家に相談する必要があります。この場合,専門家とは「税理士」です。
 次に,遺言書の作成ですが,自筆証書遺言の文案の作成を依頼するとすれば,弁護士か司法書士でしょう。どちらの資格がより良いというよりも,その人がどれだけ遺言書作成に精通しているかの問題です。弁護士でも相続にあまりタッチしていないと落とし穴のある遺言書になってしまう可能性があります。
 公証人と司法書士の違いを聞かれると,業界の人間としては驚いてしまいますが,一般の人には,特に公証人はなじみがないかもしれません。
 公証人は,公証役場という「役場」の公務員です(昔渡瀬恒彦を主人公にしたドラマがありました。)。ところが,公務員なのに国から給料が出ておらず,依頼者からの報酬で生活しています。
 仕事は,公正証書という文書の作成です。この公正証書は遺言だけでなく借用書などでも使われる文書で,判決と同じように,強制執行ができる特別な効力があります。
 公証人にお願いするのは,公正証書遺言の作成です。内容が単純なら直接公証役場に行って頼めば十分ですが,内容が複雑な場合は,弁護士や司法書士に下書きを作ってもらってから公証役場に持っていく方が無難と思います。
 ちなみに,司法書士の専門は登記,弁護士は裁判です。
預金口座の解約も楽じゃない!?
相続後に関係者がもめて預金口座の解約もままならないといったことが起こると聞きました。亡くなった方(被相続人)名義の預金口座の解約にはどんな落とし穴があるのでしょうか。また,どんなことに注意すればいいのでしょうか。

 亡くなった方の預金口座の解約手続きは,金融機関で多少の違いはありますがだいたい共通しています。口座の解約は簡単そうで実はトラブルになりやすい手続きです。

 まず,遺言書があって,遺言書の中で遺言執行者という人を決めてその人に預貯金の解約権限を与えておけば,基本的にどの金融機関でも遺言執行者だけで口座の解約ができます(ただし,金融機関によっては,遺言執行者がいても相続人全員の実印と印鑑証明などたくさんの書類を求めるところがあるので,事前に金融機関に確認して,あまり手続きが煩雑なら遺言をする前に金融機関を替えることも必要となるかもしれません。)。
 ところが,遺言書がないか,あっても遺言執行者を定めておかないと,口座を解約するには,相続人や受遺者全員の署名と実印の押印が必要となります。
 金融機関によって「相続届」とか「相続に関する依頼書」等呼び方はいろいろですが,金融機関所定の書類に相続人と受遺者全員の署名(自署)と実印の押印がないと口座の解約ができないのです。
 ということは,関係者の中に一人でも「判子を押さない」と頑張る人が出てくると,口座の解約ができなくなってしまうということです。不動産の名義移転ならゆっくりやってもいいでしょうが,被相続人が亡くなった直後は,亡くなった人の葬儀費用や病院代,施設使用料などですぐにも現金が必要なのが普通ですから,銀行口座が解約できないというのはとても困ったことです。
 実は,遺言書を作っておくことの意味は,こういう無益な紛争を避けるということにもあります。
 もう一つ,遺言書がないケースで遺産分割協議がまとまったら,遺産分割協議書に署名押印してもらう際に,銀行所定の書類にも署名押印をしてもらいましょう。相続では,親族が集まっての話し合いの場では何となく雰囲気に流されて遺産分割協議書に判子を押してしまったが,やっぱり後で気が変わった,納得できない,と言い出す人がけっこうおられます。こういうトラブルを避けるためにも,遺産分割協議書に署名押印をしてもらうときは,同時に口座解約用の書類にも署名押印をしてもらい,印鑑証明書ももらっておきましょう。
 
相続人あれこれ兄弟の相続分
相続人には誰がなるのですか? 兄が亡くなったのですが、妹の私にも相続権はありますか?

誰が相続人かというのは簡単そうで結構分かりにくいところです。兄弟姉妹が相続人となるのは、お兄さんに子どもも直系尊属(親や祖父母などのことを直系尊属といいます。)もいないという場合だけです。
逆にいうと、子どもがいる時は子どもが、子どもがいない時は親や祖父母が相続人となって、兄弟姉妹には遺産は回ってきません。具体的な相続分をお兄さんに奥さんがいる場合といない場合に分けて考えます。お兄さんに奥さんがいる場合、配偶者は必ず相続人になります。
お兄さんに子どもがいる場合は、奥さんが2分の1、子どもが残り2分の1(子どもが2人以上なら2分の1を均等割り)となり、あなたには回ってきません。
お兄さんに奥さんはいるが子供はおらず。お兄さんの母親(あなたのお母さん)が健在という場合も、奥さんが3分の2、お母さんが3分の1で(両親とも健在なら6分の1ずつ)あなたには回ってきません。
お兄さんに奥さんはいるが子どもはおらず、親も祖父母もすでに他界という場合は、奥さんが4分の3、兄弟姉妹は全体で4分の1(兄弟間で均等割り)です。つまりこの場合やっとあなたに回ってきます。お兄さんに奥さんがいない場合は、子どもがいれば子どもが全部を相続します。子どもがおらず親がいれば親が全部を相続します。子どもも親もいなければ兄弟姉妹が全部を均等割りで相続します。 つまりこの場合はあなたに回ってくるわけです。
結局、妹のあなたが相続人になれる場合というのは、お兄さんに子どもさんがおらず。直系尊属も全部亡くなっている場合ということになります。
相続人あれこれ・代襲相続
私のお祖母さんが1カ月前に亡くなりました。お祖父さんはずっと以前に亡くなって相続も済んでいます。 お祖母さんは私の母の母なのですが、母はもう3年前に他界しています。私にお祖母さんの遺産の相続権はありますか?

あります。あなたのようなケースを「代襲相続」(民法887条2項)といいます。つまり、被相続人(あなたのケースだとお祖母さん)の子(あなたのケースだとお母さん)が、相続の開始前に死亡したときは、その者の子(つまりあなた)がこれを代襲して相続人となれるのです。
相続人あれこれ・特別寄与料請求
夫が去年亡くなりました。今年、夫のお母さんが亡くなりました。私は夫のお母さんの面倒を献身的に見たつもりですが,夫のお母さんの遺産を相続する権利はありますか?

ありません。時々ある誤解です。 お母さんが先に亡くなり、その遺産を旦那さんが相続し、その後に今度は旦那さんが亡くなってしまったという場合は、あなたに旦那さんの遺産の相続権がもちろんあります。 旦那さんの遺産には亡くなったお母さんの遺産が含まれているので、お母さんの遺産をあなたが、いわば「間接的」に取得できます。 ですが亡くなった順番が、旦那さん→旦那さんのお母さんだとあなたは旦那さんのお母さんからみて「子」ではないので、旦那さんのお母さんの遺産の相続権はありません(養子縁組していれば別です)。 つまり、配偶者の親の遺産は相続できないということです。 ただあなたのケースのように、相続人でない親族、典型的には息子のお嫁さんが親の介護をすることはよくあり、この場合に介護に努めたお嫁さんの労力が相続に反映されないのは不公平です(相続人であれば寄与分というのを請求できますが、息子のお嫁さんは相続人ではないので寄与分は請求できません)。 そこで、平成30年改正法では、相続人以外の親族(6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族)が被相続人を無償で介護するなどして被相続人の財産の維持増加に特別の寄与をした場合に、相続開始後に相続人に対して、特別寄与料というのを請求できることになりました(改正民法1050条)。 これにより、例えば奥さんや子どもと別居状態の兄の介護を妹がしたといった場合に、妹は相続人には当たりませんが、特別の寄与をした親族として、お兄さんの死後、相続人(奥さんと子ども)に特別寄与料を請求できることになったわけです。 ただし、特別寄与料の請求には期間制限がありますので注意してください(改正民法1050条2項但書)。 ただし、この改正はまだ未施行です(施行は改正法の施行日か、改正人事訴訟法の施行日のいずれか遅い日とされています)。 特別寄与料請求はこの法律が施行された後の相続にしか適用されませんので、あなたのケースでは残念ながら何も請求できません。
非嫡出子の相続分
私の父と母は籍を入れていませんでした。父には戸籍上の奥さんと息子さんが一人います。父が亡くなり通夜の席で、息子さんから、私は愛人の子だから相続分は自分の半分だと言われショックでした。そうなのですか?

戸籍上の妻との間の子を嫡出子、法律上の婚姻関係にない男女間で生まれた子どもを、非嫡出子といいます。
確かに以前は嫡出子の息子さんが言うような差別があったのですが、民法が改正されて、平成25年9月5日以降に開始した相続では、嫡出子も非嫡出子も相続分は同じになりました。ですので、あなたも、いわゆる「本妻の子」も相続分は同じです。
相続放棄あれこれ
父が半年前に亡くなりましたが、最近父の債権者と称する人から父の借金を払えと督促されています。父には特にめぼしい財産はなかったので、今からでも相続放棄(民法915条)はできますか。

相続放棄は、あなたが相続開始(つまりお父さんの死亡)を知った時から3カ月以内にする必要があります(民法915条1項本文)。 この3カ月のことを相続放棄するかどうかじっくり考える期間という意味で「熟慮期間」といいます。 あなたの場合は熟慮期間を過ぎているようですので、原則として放棄できないことになります。 もっとも、例外的に「相続財産の全部または一部の存在を認識したとき、または通常これを認識しうべき時」から熟慮期間を起算する場合があります。つまり、あなたの場合でいえば、お父さんの債権者と称する人物が現れて「父親の借金を払え」と言い出した時から3カ月以内なら放棄できる可能性があります。 ただし、これには結構厳しい条件が付いていて、あなたが亡くなったお父さんに財産(負の財産つまり借金も含む)がないと信じていて、しかも当時の状況からしてあなたにお父さんの借金の調査を期待するのが難しいくて、亡くなったお父さんに財産も借金もないと信じるのに相当の理由があるという場合に限られます。借金にうすうす気付いていた場合などはダメなわけです。 実際には、このようなケースはかなりあり「相当の理由」があることを裁判所に丁寧に説明して相続放棄を申し立てると(法律上は「申述」といいます)、認めてくれるケースもあります。 ただ単純な相続放棄は自分でもできますが、こういうケースでは、自分でやるのは難しいので、弁護士に相談することを勧めます。
相続放棄あれこれ
母が亡くなって山の中にある価値のない土地を遺産として残しました。そこで相続放棄したのですが、その後、その土地に道路が通ることになり、多額の補償金が払われることになりそうなのです。相続放棄を取り消すことはできますか。

相続の放棄は一度してしまうと取り消し(法律用語では「撤回」を使います)はできません(民法919条1項)。これは相続を承認した場合も同じです。
相続放棄あれこれ
1カ月ほど前に父が亡くなり、銀行預金を100万円ほど残しました。相続人は私と兄二人です。私たちは父に借金がないと思って預金を下してみんな使ってしまいました。最近父に多額の借金があることが分かったのですが、使った100万円を返せば相続放棄ができませんか?

できません。お父さんの預金を使う行為は「相続財産の処分」に当たるので、相続を「単純承認」したことになります(民法921条1号)。いったん承認してしまうと、撤回できません(民法919条1項)。
相続の承認
2カ月前に父が亡くなりました。父の相続を早く承認したいのですが、どうすればいいですか?

何もする必要はありません。相続の放棄も限定承認(相続財産の限度で相続した債務を弁済しますと留保を付けた承認)もしなければ、自動的に「承認」したことになります(民法921条2号)。
相続放棄あれこれ
父が借金を残して亡くなったので相続の放棄を済ませました。私以外の相続人もみな放棄したようです。父の部屋を掃除していたら、父が現金を200万円ほど残しているのが見つかりました。これは使ってしまっても大丈夫ですか?

大丈夫ではありません。あなたがその現金を使うと、例え相続の放棄が裁判所で認められた後であっても、相続を承認したことになってしまいます(民法921条3号本文)。
相続放棄あれこれ
2カ月前に父が亡くなり、相続人は私しかいません。父は遺産として1000万円くらいする不動産を遺したのですが、友人知人に多額の借金があるといううわさもあります。相続放棄した方がいいか決めかねて悩んでいます。

そういう場合は、3カ月の熟慮期間を家庭裁判所に申立てをして延ばしてもらうことができます(民法915条1項ただし書き)。
そうして延ばしてもらった期間内に、借金があるかどうかを調査し、遺産の方が借金よりも少ないことが分かれば放棄すればいいわけです。
延ばしてくれるのは原則3カ月ですが、事情によっては半年延ばしてくれることもあります。複雑な事件だと延ばす必要性を詳細に説明すれば、半年延ばしてくれることもあります。
3カ月の伸長で足りるなら自分でできると思いますが、それ以上の期間の伸長が必要だという場合は、専門家に依頼することを勧めます。
相続放棄あれこれ
私の父は80歳ですが、100歳の祖母(父の母)が2カ月前に亡くなって、相続放棄をするかどうか決めかねているうちに、今度は私の父が1週間前に亡くなってしまいました。 父には多額の遺産がありますが、祖母にはどうやら祖母自身の財産を上回る多額の借金があるようです。 祖母の相続だけを放棄することはできますか。

できます。これは「再転相続」と呼ばれるケースです。相続人(つまりお父さん)が、被相続人(つまりお祖母さん)の相続の承認あるいは放棄をしないで「熟慮期間内に」(ここポイントです)死亡してしまった場合、お父さんの相続人(つまりあなた)は、お祖母さんの相続については放棄し、お父さんの相続については承認することができます。ただし、再転相続の場合の相続放棄は、裁判所のHPにも書式が載っておらず、一般の人が自分でやるのは難しいかもしれません。間違ってお父さんの相続を放棄してしまうと大変です。一緒にお祖母さんの相続も放棄することにはなりますが、お父さんの財産は相続できないことになってしまいます。ちなみに、お父さんが悩んでいるうちに「熟慮期間」の3カ月を過ぎてしまっていた場合は、もうあなたはお祖母さんの分だけを放棄することはできません。あくまでお父さんが熟慮期間中に亡くなった場合の話です。
相続放棄と固定資産税
父が半年前に亡くなりました。父の遺産は故郷の山の中の畑と山林だけだったので相続を放棄したのですが、役所から固定資産税の納税通知書が届きました。 相続を放棄しているので払う義務はないと思うのですが。ちなみに、母はすでに亡くなっていて、子は私一人です。

相続を放棄すれば固定資産税の支払い義務もなくなります。固定資産税は、毎年1月1日を賦課日として「固定資産課税台帳」という市町村に備えられた固定資産の帳簿に登録されたところに従って課税されます(地方税法359条。この考え方を「台帳課税主義」といいます)。 この固定資産税課税台帳は法務局に備えられている登記簿の記載に従って作成されています。 ですので、登記簿上の名義人が亡くなったお父さんのままになっていると、市町村は相続放棄をしたかどうかを知らないので、相続人に納税通知書を送付してきます。 ですが、あなたは相続を放棄しているので、お父さんの代わりに固定資産税を支払う義務はありません。 実務上は役所に相続放棄の申述受理証明書を送れば、それでそれ以上の請求は来なくなると思われます(市町村によって多少対応が違う可能性があります)。
相続の手続き
父が亡くなり、私と兄の二人が相続しました。父は土地を2カ所残してくれて、兄がAの土地を、私がBの土地をもらうことにしたのですが、これから後の手続きが分かりません。

お父さんの遺産をどう分けるかについて話がついたということは、あなたとお兄さんは、遺産分割の協議をして合意に達したということです。そうすると、後はAとBの登記名義を変更するだけです。相続を理由に登記を移すには普通、遺産分割協議書というのを作って登記手続きを司法書士さんに依頼します。 あるいは、司法書士さんに相談すれば、合意の内容に従った遺産分割協議書の作成も含め、登記手続を全部やってくれるはずです。
相続税
父が亡くなり、預金を2000万円ほど残してくれました。相続人は私一人です。相続税が心配です。

心配いりません。相続税には、基礎控除額というのがあり、これは「3,000万円+600万円 × 法定相続人の数」で計算されます。 あなたのケースだと3,000万円+600万円×1人=3,600万円ですので、相続税はかかりません。 要するに相続で税金の心配をする必要が出てくるのは、相続財産が3,600万円を超える場合だけです。
生命保険は遺産?
父が亡くなり、遺産は銀行預金4,000万円だけ、相続人は私と兄だけで、二人で2,000万円ずつ分けました。 父は私のために私を受取人にして生命保険に入っていてくれて、私に1,000万円の生命保険が下りたのですが、兄から半分は自分のものだと言われて困っています。 生命保険金も相続財産に含まれるのですか。

生命保険金は亡くなった人の遺産ではなく「受取人の財産」です。 ですので、あなたが受取人に指定されていたのであれば、全部あなたの財産で、お兄さんに分ける必要はありません。 ただし、あなたがお父さんの保険金を受け取ることでお兄さんとの間に著しい不公平が生じるような場合は「特別受益」(民法903条)という制度の対象になる場合があります。 なお、亡くなった人が死亡保険金の受取人に自分を指定しているようなケースでは、いったん亡くなった人が保険金を受け取ってそれを相続人が相続するという流れになるので、生命保険金も相続財産に含まれます。
特別受益と寄与分
「特別受益」(民法903条)とか「寄与分」(民法904条の2)という制度があると聞きましたがどんな制度ですか?

簡単にいえば、特別受益は、亡くなった人から生前に「特別な利益」を受けた人について、受けた利益を相続で考慮しましょうという制度で、受けた利益の分だけ相続分が減ります。
寄与分は逆に、亡くなった人の財産形成に「寄与」した人について、寄与した分を相続で考慮しましょうという制度で、寄与した分だけ相続分が増えます。
考え方は簡単ですが実際の計算はかなり面倒です。また、利益や寄与がすべて特別受益や寄与分として認められるわけでもありません。
特別受益と遺贈
父が亡くなりました。相続人は母と私と妹です。父の遺産は、時価1,000万円のA土地も含めて総額で6,000万円でした。父は遺言で私にA土地を遺贈してくれました。こういう場合、私の相続分はどうなりますか?

お母さんの相続分2分の1、あなたと妹さんがそれぞれ4分の1なので、金額に直せば、お母さんが3,000万円相当、あなたと妹さんが1,500万円相当を相続することになります。 すると、お父さんがあなたに遺言で贈与した1,000万円の土地はどうなるかなのですが、この遺贈はまさに「特別受益」に当たるので「相続分の中からその遺贈…の価額を控除した残額をもって」あなたの相続分となります。 結局あなたは、A土地に加え、1,500万円の相続分から1,000万円相当のA土地の価額を控除した500万円を相続することになります(民法903条1項)。
特別受益と婚姻のための贈与、生計の資本としての贈与
父が亡くなりました。相続人は私(A)と兄(B)と妹(C)です。 父は妹ばかりを可愛がり、妹の結婚式は500万円もかけた豪華な式でした。私は結婚式の費用は一切父から援助されていません。 こういう場合、妹の結婚式費用は,特別受益(民法903条)というのに該当しませんか。 また、兄はずっとニートで仕事もせず生活を親に頼っていました。親が兄を養うのにかかった費用は兄の特別受益ではないのでしょうか。

特別受益というのは、相続人の中に被相続人(=遺産を残して亡くなった人)から特別な財産的利益を受けた人がいる場合に、遺産にその受けた利益を加えてそれを相続財産とみなして、相続人間に不公平がでないようにする制度です。ただし、被相続人から受けた財産的利益が全部特別受益というわけではなく、①遺贈、②婚姻若しくは養子縁組のための生前贈与、③生計の資本としての生前贈与が特別受益となります。 まず妹さんのケースですが、豪華な式を挙げるための費用というのは「婚姻のための生前贈与」といっても良さそうですが、裁判例は、婚姻のための生前贈与というのは持参金や支度金を指し、結納や挙式費用は婚姻のための生前贈与ではないとしています。 ですので、妹さんのケースを特別受益というのは少し難しいと思われます。 次にお兄さんのケースですが、生計の資本というのは、事業資金の提供や特別な高等教育の費用などの、広い意味で生計の基礎として役立つ費用のことで、単に生活の面倒を見たというのはこれに含まれないというのが裁判所の考え方です。 ですので、お兄さんのケースも特別受益というのは難しいと思われます。
特別受益の計算
父が亡くなりましたが、遺産は総額で9,000万円でした。相続人は、母、兄、私、妹です。父は兄に自宅の購入資金として2年ほど前に3,000万円を贈与しています。妹には、遺言で、1,200万円を贈与(遺贈)しています。こんな場合でも私と兄や妹の相続分は同じになるのでしょうか?

お兄さんの貰った生前贈与は,生計の基礎に役立つ費用なので「特別受益」に当たります。
しかも法定相続分を超えています(こういうのを「超過特別受益」といいます)。
妹さんの1200万円も遺贈なので特別受益です。
そうすると、あなたの相続分はこれを考慮して計算されますが、超過特別受益がある場合の具体的な相続分の計算にはいくつかの考え方があって統一されていません。
以下に実務で採用されている代表的な二つの計算方法を紹介します。どちらも、かなり複雑な計算手順を踏みます。

①の計算方法(貰いすぎ分を法定相続分で負担)

・まず、お兄さんに生前贈与された3000万円を遺産に加えます(持ち戻しといいます。)。これで遺産の総額は1億2千万円になります(これを「みなし相続財産」といいます。)。
・次に、この1億2千万円から、お母さん、お兄さん、あなた、妹さんの相続分を法定相続分に従って計算し、特別受益を控除します。
  お母さん:12,000×1/2=6,000
  お兄さん:12,000×1/6=2,000 2,000−3,000=‐1,000
  あなた :12,000×1/6=2,000
  妹さん :12,000×1/6=2,000 2,000−1,200=800
・遺贈分の1200万円を9000万円から引いて相続財産を7800万円とします。
・お兄さんは特別受益の額が相続分を超えている(超過特別受益)ので、具体的相続分はゼロ。なお、お兄さんの相続分はゼロになるだけで、貰った3000万円のうち1000万円を遺産に戻す必要はありません。ここは誤解される方が多い部分です。
・お兄さんの貰いすぎ分1000万円を、それぞれの法定相続分に応じて割り付けます。つまり、割り付け額を上で計算した相続分から引きます。
まず、割り付け額は、お母さん:あなた:妹さん=1/2:1/6:1/6=3:1:1=600:200:200です。
つまり、お兄さんが貰いすぎた分をお兄さんから取り戻せないので、お母さんとあなたと妹さんが3:1:1の比率で負担するということです。
金額でいえば、お母さんが600万円、あなたと妹さんが200万円ずつ負担します。
・上で計算した相続分から負担分を引いてそれぞれの具体的な相続分を計算します。
お母さん:お兄さん:あなた:妹さん=6000‐600:0:2000‐200:800‐200=5400:0:1800:600となり、合計額は7800万円になります。
・妹さんは600万円以外に1200万円を遺贈により別枠でもらえるので合計額は1800万円になります。

②の計算方法(貰いすぎ分を具体的相続分に応じて負担)
・まず、お兄さんに生前贈与された3000万円を遺産に加えて、遺産の総額は1億2千万円になります。
・次に、この1億2千万円から、お母さん、お兄さん、あなた、妹さんの一応の相続分を計算します。
  お母さん:12,000×1/2=6,000
  お兄さん:12,000×1/6=2,000 2,000−3,000=‐1,000
  あなた :12,000×1/6=2,000
  妹さん :12,000×1/6=2,000 2,000−1,200=800
・遺贈分の1200万円を9000万円から引いて相続財産が7800万円とします。
・お兄さんは特別受益の額が相続分を超えている(超過特別受益者といいます)ので、具体的相続分はゼロです。ここまでは①と同じです。
・それぞれの「比率」を計算します。比率は、お母さん:お兄さん:あなた:妹さん=6000:0:2000:800=15:0:5:2となります。
・7800万円を、15:0:5:2の比率で分けます。そうすると、1円未満四捨五入で、お母さん:7800万円×15/22=5318万円、お兄さん:7800万円×0=0、あなた: 7800万円×5/22=1773万円、妹さん:7800万円×2/22=709万円となり、合計額は7800万円となります。
・妹さんが別枠で1200万円を貰えるのは①と同じです。
・つまり,①の方式では、お兄さんの超過特別受益の1000万円を、お母さんが相続分から600万円、あなたと妹さんがそれぞれ200万円、それぞれ負担したのに対して、②の方式では,1000万円を、お母さん:あなた:妹さん=15:5:2の割合で分けて負担するわけです。
具体的には、お母さん=1,000×15/22=681.8182万円、あなた=1000×5/22=227.2727万円、妹さん=1,000×2/22=90.9091万円ずつ負担します(681.8182+227.2727+90.9091=1,000)。
・あなたのケースですと、②の計算方式の方が①の計算方式よりもあなたの相続分が少なくなりますから、あなたから依頼を受けた弁護士としては、①の計算方式が妥当と主張することになりますし、妹さんが依頼した弁護士は、②が妥当だと主張することになるでしょう。
どちらを採用するかは裁判所次第です。
・どちらの計算方法も、このような簡単な説例ですらとてもややこしい計算になることがご理解いただけると思います。
・計算方式によって自分の相続分が変化するケースは、遺産分割協議や調停の前に専門家に相談したほうがいいでしょう。
特別受益の持戻しを免除したい
私は今年78歳で、妻と娘が二人います。資産は5000万円ほどあります。下の娘が私の面倒をよく見てくれたので、生きているうちに1000万円ほど贈与したいのですが、そういうことをすると特別受益とされてしまうと聞きました。
なにかいい方法はありませんか。

確かに、例えば下の娘さんに生前贈与で1000万円を渡したりすると,特別受益とされて、相続の時に下の娘さんの相続分がそれだけ減って意味がないことになるかもしれません。
こういう場合「A子(下の娘さん)に○○年〇月〇日に贈与した1000万円については、相続分を算定する場合、その持戻しを免除する。」といった内容の遺言書を作成しておくという方法があります。
寄与分とその計算
父が90歳で亡くなり、相続人は母と私と妹です。遺産は総額で5000万円です。
母は実家の両親から相続した財産のうち1000万円を父の事業のために援助しています。
また、私はヘルパーさんが来ない日に父の面倒を見に実家に行っていました。
妹は遠方に住んでいて何もしていないくせに、電話で父の話し相手になって精神的に父を支えたと言っています。
こういう場合、母の援助や私の介護は相続の中で考慮してもらえますか。妹についてはどうですか。

こういう場合を考えて、民法904条の2は「寄与分」という制度を定めています。
これは、共同相続人、つまりお母さん、あなた、妹さんの中に、お父さんの事業に関して財産上の給付をしたり、お父さんの療養看護に努めたりして、お父さんの財産の維持、増加に特別の寄与をした人がいれば、その人について、寄与分相当額を遺産から別枠で貰えるようにしたものです。
お母さんの場合、1000万円を事業のために援助しているので、事業に関する財産給付として寄与分と認められると思われます。ただし、1000万円が直ちに寄与分として認められるのではなく、お父さんの財産の維持、増加に寄与した部分だけが寄与分として認められます。
次に、あなたの場合、単に親の面倒を見たというだけでは寄与分には当たりません。それによって、本来ならもっと掛かったであろう介護費用を節約できたというような場合でないと、財産の維持、増加と関係がないので、寄与分として認められません。あなたの場合は認められないか認められても少額に留まると思われます。
次に妹さんの場合ですが、精神的に支えたというだけでは財産の維持、増加に寄与していませんから、寄与分には当たりません。
結局、お母さんの寄与分が500万円であれば、遺産の5000万円から寄与分に相当する500万円を取り除け、4500万円をお母さんの相続分1/2=2250万円、あなたの相続分1/4=1125万円、妹さんの相続分1/4=1125万円で分け、お母さんはこれとは別に500万円を受け取ることになります。
預貯金の扱い
父が亡くなり、遺産は預金が5000万円だけです。相続人は母、兄、私です。兄は父から生前に家を建てる資金として2000万円の援助を受けています。この場合、相続分はどうなりますか。

結論を先にいうと、遺産が預貯金であっても、特別受益の2000万円を相続財産に持戻しをした上で相続分を決めます。
遺産に預貯金がある場合の扱いは、平成28年12月19日を境に大きく変わりました。この日、最高裁判所が、預貯金が遺産分割の対象となるかどうかについての従来の判例を変更し、遺産分割の対象となる、としたのです。
これがどういうことかを、この判例変更以前と以後であなたのケースがどう変わるかで、見ていきましょう。
まず、平成28年12月19日の裁判の前は、預貯金は基本的に遺産分割の対象とならないとされていました。
これはどういうことかというと、預貯金というのは分割できる権利なので、被相続人(お父さん)が亡くなった時点で即それぞれの相続人に相続分に従って分割されてしまう、という考え方です。
つまり、遺産分割しなくても、あなたはお父さんの預金の1/4を当然に相続したのです。
ところが、この考え方だと、あなたのケースのように相続人の中に特別受益を受けた人がいる場合に不公平な結論になります。
もし遺産が預金でなく、例えば5000万円相当の不動産であれば、5000万円に特別受益である生前贈与2000万円を加えた7000万円がみなし相続財産になり、お母さんが3500万円、あなたとお兄さんが1750万円、お兄さんが1750−2000=−250万円で相続分ゼロとなり、このマイナス分をお母さんとあなたが一定の割合で負担することになります(これについては【特別受益の計算】を参照してください。)。要は、5000万円はあなたとお母さんが相続し、お兄さんには遺産が行かなかったわけです。
ところが、遺産が預貯金で預貯金は遺産分割の対象とならないと考えると、特別受益は考慮されないということになり(なぜかというと特別受益は遺産分割の中で考慮されるものなので遺産分割の対象とならないものについては考慮のしようがないからです。)その場合、預貯金は、お母さん2500万円、あなた1250万円、お兄さん1250万円で当然に分割され、お兄さんは生前贈与も含めると3250万円貰うことになって不公平です。
そこで最高裁判所は、平成28年12月19日付で、預貯金は遺産分割の対象となる、と今までと違った判断を出しました(判例変更といいます。)。
その結果、お父さんの遺産が不動産でも預貯金でも同じように特別受益や寄与分を考慮して遺産分割されることになり、残した財産がたまたま預貯金だったのか不動産だったのかで結論が異なるという不公平がなくなりました。

遺産分割と相続人の所在不明
父が5000万円の価値のある土地を遺して亡くなりました。相続人は母と私と兄ですが、兄は3年前に失踪して行方不明です。早く相続手続きを終えたいのですがどうしたらいいですか。

こういう場合、家庭裁判所に不在者財産管理人選任の審判を申し立てます。不在者財産管理人は、不在者の財産を管理、保存するほか、家庭裁判所の権限外行為許可を得た上で、不在者に代わって、遺産分割、不動産の売却等を行うことができます(民法25条)。  
選任を申し立てることができるのは「利害関係人又は検察官」ですが、共同相続人であれば利害関係人に当たるので問題ありません。
つまり、家庭裁判所に不在者財産管理人という人を選任してもらって、その人に、お兄さんの代わりに遺産分割に加わってもらうわけです。
不在者財産管理人は特に法律専門家(弁護士や司法書士)でなくてもなれますが、専門家が選任されることが多いようです。
管理人の報酬は家庭裁判所が決めて不在者の財産から支払われます。
相続人がいない場合と特別縁故者
遠い親戚のおばあさんが亡くなりました。おばあさんには相続人となるような親族はおらず、私がずっと病院への送り迎えや施設への入所の世話などをしてきました。
おばあさんにはかなりの不動産と預金があるようですが、ばあさんの財産はどうなりますか。

あなたは「特別縁故者」(民法958条の3)に該当するようです。
特別縁故者というのは、相続人がいない場合に、家庭裁判所が、亡くなった人(被相続人)と特別な縁故があったと認められる人に、清算後に残った相続財産の全部または一部を与えるという制度です。
どんな人が特別縁故者にあたるかというと、
①被相続人と生計を同じくしていた者(息子のお嫁さん、内縁の妻あるいは夫、同居の叔父叔母など。ただし「生計を同じく」していないとだめです。)、②被相続人の療養看護に努めた者、③その他被相続人と特別の縁故があった者です。
特別縁故者として財産分与を求めるには、相続財産管理人が選任されていることが必要です。ですので、あなたが特別縁故者と主張したいのであれば、まずは家庭裁判所に相続財産管理人というのを選任するよう申し立てる必要があります。申立てできるのは利害関係人ですが、これにはあなたのように亡くなった人の療養看護に努めた人も含まれます。
相続財産管理人が選任されてから諸手続きが終わって実際に特別縁故者に財産が分与されるまでには1年半以上はかかります。
なお,特別縁故者がいなかったり,特別縁故者に分与しても余った財産があると,その財産は国のものとなります(民法959条)。
遺言の方式
私は90歳でまだ元気ですが、自分が亡くなったあとのことが心配なので娘にパソコンで遺言書を作ってもらいました。実印と印鑑証明書を付けたので大丈夫と思いますが、どうでしょうか。
私の遺言をスマホでビデオに撮って残すのはどうですか。

遺言書は法律で定められた方式を厳格に守らないと無効になってしまいます(民法960条)。
遺言には,全部で7種類の方式がありますが、このうち実際に多く用いられているのは、①自筆証書遺言(民法968条)と、②公正証書遺言(民法969条)です。
自筆証書遺言は、平成30年の法改正で少し要件が緩和されましたが、基本的に遺言の全文を自筆で書く必要があります。
あなたの書いた「遺言書」は、この要件を充たしていないので無効です。なお、公正証書遺言は公証人という人に作成してもらう遺言です。
ビデオ遺言ですが、スマホの普及で誰でも簡単にビデオ録画ができるようになって、自分の遺志をビデオで残そうという人が増えるかもしれません。
ですが、ビデオ録画はどんなに本人の遺志であることが明確でも法的には有効な「遺言」とはされません。
自筆証書遺言のメリットデメリット
遺言には公正証書遺言が一番いいという話を聞きましたが、面倒なので自分で手書きで遺言を書こうと思います。なにか注意することはありますか。

まずは全文を自分で手書きする必要があります。署名だけでなく、遺言の内容も日付も全部です。
ただし、平成30年の法改正で、改正法が施行された後に発生した相続については「財産目録を別紙として添付する場合に限り」この財産目録についてはパソコンなどで作成してもよくなりました(別紙のすべてに署名押印する必要があります。)。
日付も明記する必要があり、〇月吉日などという書き方はだめです。もっとも、作成日付が特定できるなら差し支えないとされていて「満80歳の誕生日」でも特定できるので大丈夫とされていますが、やめた方が無難です。
署名押印も当然必要です。署名は当たり前ですが自署です。押印は指印でもいいという裁判例もありますが(最判平元・2・16)ちゃんと印鑑(できれば実印)を押しておきましょう。
それと、自筆証書遺言を保管している人は、遺言者が亡くなった後直ちに家庭裁判所で「検認」(民法1004条1項)という手続きを取る必要があります(公正証書遺言では検認は必要ありません。)。これは遺言書の偽造・変造を防ぐための手続きなので、検認を受けたからといってその遺言が有効なものと認められるというわけではありません。
自筆証書遺言のメリットは、なんといっても手軽で費用も掛からないことです。
デメリットは、公正証書のように専門家が関与していないので、有効性や内容の解釈を争われる場合が多いという点です。特に、自筆証書遺言を書いた時点での遺言能力(簡単に言えば自分が書いている遺言の内容がどういうものかをきちんと理解する能力のこと)の有無と、あいまいな条項の解釈で争いになります。
そこで、どうしても自筆証書遺言を書きたいというのであれば、①お医者さんにあなたが認知症などで認知能力が低下していないという診断書を書いてもらい(長谷川式などのテスト結果を付ければなおよし)、②内容的に争いになるような曖昧な表現がないか弁護士などの専門家にチェックして貰う、できれば遺言書の文案自体を専門家に作成してもらうことを勧めます。
ただ、そうなると「お手軽」という自筆証書遺言のメリットはほとんどなくなってしまいます。
というわけで、遺言はやはり「公正証書遺言」が一番です。
なお、平成30年の相続法改正で、法務局が自筆証書遺言を保管する制度が作られました。これについては【自筆証書遺言の保管制度について】で解説します。
公正証書遺言のメリットデメリット
私には財産が5000万円あり、相続人は妻と、子どもが2人です。遺言で、妻に3000万円、二人の子どもにそれぞれ1000万円を相続させたいと思っています。
公正証書遺言がいいというのはよく聞きますが、具体的にどこがいいのですか。
それと、費用も心配です。

遺言の内容はあなたが直接公証人に口頭で説明する(口述する)必要があります(障害があって口がきけない人は手話通訳や筆談でもよいとされています。民法969条の2)。
つまり、公証人という第三者が直接あなたから話を聞いて作成するので、後であなたが認知症で遺言の内容を理解していなかったなどと争われる可能性がほとんどないのです。ただし、公正証書遺言が裁判で無効とされた例もあり(東京高判平27・8・27など)絶対ではありません。
デメリットは、公証人役場に出向いたりする手間と費用です。費用は相続財産の価額と相続人の数で決まります。財産の価額ごとの手数料は次のように決まっています(日本公証人連合会のHP)。

◆目的財産の価額 => 手数料の額
・100万円まで => 5000円
・200万円まで => 7000円
・500万円まで => 11000円
・1000万円まで => 17000円
・3000万円まで => 23000円
・5000万円まで => 29000円
・1億円まで => 43000円

◆全体の財産が1億円以下のとき => 算出された手数料額に1万1000円が加算される(遺言加算)

◆1億円を超える部分について以下の基準で加算される
・1億円を超え3億円まで => 5千万円毎に1万3000円
・3億円を超え10億円まで => 5千万円毎に1万1000円
・10億円を超える部分 => 5千万円毎に8000円

気を付けていただきたいのは、それぞれの相続人ごとに手数料が計算され、その合計額が手数料になるということです。
あなたのケースでは、奥さんに3000万円、二人の子どもさんにそれぞれ1000万円を相続させたいということですので、次のようになります。
奥さんの分23,000円+お子さんの分17,000円×2+遺言加算11,000円=68,000円
もし公証人に入所中の施設まで出向いてもらって作成する場合は、遺言加算部分を除く部分が50%増しになり、日当と交通費も掛かります。
公正証書遺言の作成前に専門家に相談した方がいいケース
私の夫が先日亡くなりました。私と夫はどちらも再婚同士で、夫には先妻との間に息子が一人、私にも死別した元夫との間に娘が一人います。息子と私は養子縁組をしていません。
夫は息子には現金預金を、私には敷地含め2億円相当の賃貸マンションを遺して私に管理するよう言い残しました。土地とマンションは銀行から借りたマンション建築資金のために抵当に入っていますが、借入金は賃料から順調に弁済できており、あと10年ほどで払い終わる予定です。
私は、自分が亡くなった後は、この財産を自分の娘ではなく夫の血を受け継ぐ息子に残したいと思っていますが、どんな方法が考えられるでしょうか。
ちなみに、息子と娘の関係は良好です。

方法はたくさんあります。
一つは先妻との息子さんに全財産を遺贈するという内容の遺言を作成しておくことです。養子縁組していないので息子さんはあなたの相続人ではありませんが、遺贈は相続人以外にもできます。
ただ、この方法だとローンが払い終わらない段階であなたが亡くなると娘さんに債務だけが相続されてしまいます(相続放棄はできますがそうすると娘さんにはまったく財産を遺せなくなります。)。
また、全財産を息子さんに遺贈するとなると、娘さんが遺留分を主張すると問題が生じます(遺留分と不動産については平成30年の相続法改正で大きく変わりましたが29で説明しますのでここでは詳しく取り上げません。)。
娘さんに遺留分に相当する財産を残してあげれば問題ないのですが、それでも自分にはほとんど遺産が来ないという内容の遺言書がいきなり出てきたら、せっかく今はうまくいっているあなたの娘さんと先妻の息子さんとの関係が悪化してしまう可能性が大です。
そこで、こういう場合は、いきなり公証人に遺言書の作成をお願いするのではなく、事前に息子さんと娘さんによく説明して内容を理解してもらい、両者の希望も聞いてそれを取り入れた遺言にすることをお勧めします。
悲しいかな、親が良かれと思って作った遺言書で逆に家族関係が決定的に壊れてしまうというケースを弁護士はたくさん見ています。
遺言の内容が単純であれば、いきなり公証人役場に行って公証人に遺言の作成をお願いすれば十分です。
ですが、内容が複雑で、遺言によって逆に家族の中に軋轢を生みそうな場合は、公証人にお願いする前に、弁護士や司法書士などの法律専門家に相談することをお勧めします。
遺留分は平成30年改正で大変化
父は現在85歳で重度の認知症ですが他に病気はありません。父が亡くなった場合の相続人は私と兄の二人で、遺産は3000万円相当の不動産だけです。
兄から、父が公正証書遺言を遺していて、不動産は全部兄に相続させると書いてあるそうです。
こういう遺言があっても、父が亡くなったら、私は遺留分というのを主張できると聞いたのですが、具体的にどんなことを主張できますか。

遺留分は平成30年の相続法改正で大きく変わった分野です。お父さんが高齢で重度の認知症ということなので,今後新しい遺言をする可能性はないと思われます。
そうすると、お父さんが亡くなる頃には平成30年改正法が施行されていると思われますので、平成30年改正法だとどうなるかを説明します。
まず、改正前も後も、あなたが遺留分として法定相続分(2分の1)のさらに2分の1(つまり遺産全体の4分の1)を主張できるのは変わりません。
変わった点ですが、改正前は、現物返還請求が原則で、金銭賠償は例外でした。名称も「遺留分減殺請求権」といいました。
改正後は、名称が「遺留分侵害額請求権」と変わり、この権利を行使すると「遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。」(改正民法1046条1項)とされました。
つまり、改正後に発生した相続については、不動産の4分の1に相当する金銭を支払えと請求することになりました。
そこで結論的には、あなたはお兄さんに対して遺留分侵害額として、750万円を支払えと請求できるということになります。
これに対してお兄さんが750万円を一括で払えない場合は、お兄さんは裁判所に対し、750万円の全部または一部の支払につき期限の許与を求めることができるとされています。
自分たちが亡くなった後引きこもりの息子のことが心配
私は77歳、妻は75歳ですが、私たちには息子が一人います。息子は知的能力には問題がないのですが、中学生のころから引きこもりで、自分ではお金の管理ができません。今は幸い資産があり生活には困っていませんが、私たちが亡くなった後、息子が相続したら財産をあっという間に使い果たしてしまいそうです。息子の生活を安定させるいい方法はないでしょうか。

あなたのようなケースは民事信託(家族信託ともいいます。)が向いていると思います。
あなたを委託者(財産を委託する者)、親族の誰かを受託者(委託を受ける者)、息子さんを受益者(利益を受ける者)として、委託者があなたの資産を管理して、毎月息子さんに生活費を渡すという民事信託をすればいいのです。
受託者がきちんと仕事をしてくれるか心配だという場合は、受託者の監督役として、信託監督人や受益者代理人を選任しておけばいいでしょう。
信託監督人や受益者代理人は弁護士などの専門職が就くのが通常です。
民事信託は、遺言でして、あなたの死後効力が発生するようにもできますし、契約でして、生前から効力が発生するようにもできます。
民事信託は、仕組みの設計が難しいので,専門家に相談されることをお勧めします。なお、この「信託」は信託銀行の業務とは別です。
亡くなったあとペットのことが心配
私は85歳で一人で暮らしています。
私は猫を二匹飼っているのですが、私が死んでしまった後この子たちがどうなってしまうのかと思うと心配でしかたありません。
財産といえるのは2000万円ほどの預金だけです。身内としては姪のA子がいます。信用できる子ではありますが猫アレルギーです。
猫に財産を遺せないでしょうか。遺せないなら、この子たちの面倒を見てもらういい方法はありませんか。猫好きの友人のBさんなら面倒を見てくれそうです。

猫に財産を遺すことはできませんが、あなたが亡くなった後もあなたの遺産で猫の世話をしてもらうような仕組みを作っておくことは可能です。方法は大きく三つ考えられます。
一つ目は,負担付き遺贈という方法です。
例えば、「遺言者は,遺言者の友人B(生年月日,住所)に、遺言者の愛猫タマとジョセフィーヌ及び遺言者名義の預金(○○銀行○○支店・普通・口座番号○○○○○○○○)を、タマとジョセフィーヌを愛情をもって飼育することを負担として遺贈する。」といった内容の遺言書を作っておくわけです。Bさんが信頼でき、あなたが亡くなるまで猫ちゃんたちの面倒は自分で見られるというのであれば、これがお勧めです。
二つ目は、負担付き死因贈与契約です。
例えば、あなたを「甲」、Bさんを「乙」として、
「第1条 甲は、乙に対し、乙が甲の愛猫○○を死ぬまで世話することを負担として、金1000万円を贈与することを約し、乙はこれを承諾した。
第2条 前条の贈与は、甲が死亡したとき効力を生じる。」といった契約をBさんと交わすのです。
この場合、猫の世話はあなたが亡くなる前から始めてもらうことができます。ですので、あなたがペット飼育不可の施設に入所しなければならないというような場合にはこちらが有用です。
ただ、どちらも,あなたの死後に本当にきちんとペットの世話をしてくれるかを保障してくれません。ですので、この二つは、ペットを愛情をもって世話してくれるという信頼関係のある人がいないと使えません。
三つ目は、民事信託を使う方法です。信託を使うと仕組みは少し複雑になります。あなたが「委託者」になり、姪のA子さんが「受託者」になって、自分の死後愛猫二匹はBさんに預けます。その飼育費用はあなたがA子さんに信託した財産からA子さんに捻出してもらいます。A子さんは、愛猫が死ぬまで飼育費用をねん出するという目的に沿った財産管理を義務付けられます。通常は、愛猫が二匹とも亡くなった段階で、残った財産はA子さんに与えられます。
どの方法も、一般の方が自分で契約書を作ったり遺言書を書いたりというのは困難と思われます。専門家に相談されることをお勧めします。
自筆証書遺言の保管制度について
自筆証書遺言の保管制度というのができるそうですが、どんな制度ですか。この制度を利用するとどんなメリットがありますか。

平成30年の相続法改正で自筆証書遺言を使いやすくするということで民法が改正されましたが、同時に、法務局における遺言書の保管等に関する法律(通称「遺言書保管法」)というのができて、自筆証書遺言の仕組みが大きく変わることになりました。
自筆証書遺言は手軽に作成できる反面、方式の不備で無効になったり、保管中に紛失したり偽造されたりするおそれがありました。遺言書保管制度は、法務局に自筆証書遺言を保管してもらい、こういう不都合を避けようという制度です。
ポイントは次の3点です。
第1は、法務局が保管に当たって自筆証書遺言の形式面を審査してくれるということです。
ここで方式(日付や署名押印など)の不備がチェックされるため、形式不備で無効とされる危険は相当に減少します。
第2に、保管申請は代理人がすることはできず、必ず自筆証書遺言を書いた本人しかできません。本人確認も行われます。
自筆証書遺言では、後日、偽造ではなかとか、本人に遺言能力、つまり遺言の内容や遺言の法的効果を理解し判断できる能力があったかが紛争になることが多々あります。
自筆証書遺言保管制度は、遺言者が遺言書保管所に自ら出頭して行わなければならないとされ(遺言書保管法第4条6項)、代理人による申請はできないことになっているので、偽造の可能性はほとんどなくなると思われます。また、遺言を書いて法務局に自分で出向いて自分自身で保管申請をした人には遺言能力があったと、事実上推定されそうですので、遺言能力を争われる危険も減少すると思われます(この点は実際の運用が始まってみないと正確なことは言えませんが。)。
第3に、相続開始後は、相続人は法務局に、遺言書情報証明書の交付を請求できます。この証明書には遺言書の画像情報が付いているので、これで遺言の内容を確認して相続手続きができます。
遺言書保管制度は、2020年7月12日までに創設されることになっているので、まだ費用などは不明です。ですが、この制度を上手に使えば、今まで公正証書にしないと安心できなかった遺言書を安価に手軽に作成できるようになると思われます。

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